「通常の3倍のスピード」による単機先行進入

FMA考察設定-G

シャー中尉の主力部隊から突出し高速で防御ゾーンへ進入する戦術

「一機のザクは通常の3倍のスピードで接近します」
「シャ、シャーだ、あ、赤い彗星だ」
ガンダムにおける、この有名なセリフ「3倍のスピード」は、放送当時から様々な解釈、設定がなされてきました。
何が3倍なのか、どうして3倍が可能なのかについて考察した個人創作設定です。

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「FMA考察設定-G」
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ザクによる対艦攻撃戦術
多数の高機動兵器が目標艦隊へ進攻、交戦可能距離まで接近し行われる攻撃に対し、艦隊が取る防御戦術は「多層防御」だった。
「多層防御」は、艦隊を中心とし外縁の遠距離から艦隊周辺の中距離、艦隊外周の近距離、そして艦隊内部の近接距離に至るまで、何層にもわたって防御ゾーンを配置し縦深を持たせる防御戦術である。
この「多層防御」を被害極限で突破し目標艦隊へ有効な打撃を与えるため、ジオンの高機動兵器、モビルスーツ部隊は様々なパターンのシミュレーション、実機演習を行い、ミノフスキー粒子散布下での攻撃プロファイルを策定していった。
プロファイル策定の根底には、ミノフスキー粒子散布下で極度に低下する索敵距離、センサー精度、防御火器の命中率があった。
ミノフスキー粒子以前の全滅に近い防御ゾーン突破から解放され、突破後の艦隊内部での戦力発揮、戦果拡大へプロファイル最適化の対象が移っていったのである。
ジオン宇宙突撃軍が策定したミノフスキー粒子散布下でのモビルスーツ大隊の攻撃プロファイルを次に示す。
※.モビルスーツの「攻撃プロファイル」および「加速継続時間」、「最終速度」は、「宇宙空間におけるモビルスーツの機動性能」 を参照。
※.プロファイル図には、編集部の追記も含みます。

図1.ジオンモビルスーツ隊の連邦軍艦隊への攻撃プロファイル


シャー中尉の攻撃プロファイル
特別強襲大隊中隊長のシャー中尉は、ジオン軍規定とは異なるプロファイルで、連邦艦隊防御ゾーンへ進入した。そのプロファイルを示す。

図2.シャー中尉機の連邦軍艦隊への攻撃プロファイル_r2

シャー機は特別強襲大隊主力が連邦軍艦隊の外縁に達する前に加速し速度を増加。主力隊の前方に位置することで隊に先行し単機で連邦軍艦隊防御ゾーンへ進入を開始。
遠距離防御ゾーンに入っても加速を続ける。
この時の速度は、「通常の3倍のスピード」に達するものだった。
中距離防御ゾーンでは減速せず高速度を維持、
近距離防御ゾーンで高G減速をし、連邦軍艦隊の内部へ突入する。

この無謀とも思える進入プロファイルでシャー中尉は何をしたのか?
以下は連邦軍の視点も含めて解説する。

単機先行進入への脅威判定
シャー機の接近を連邦軍は探知※1していた。
連邦軍の情報分析官は、その情報に対して判断を付きかねていた。
「強行偵察、先導機、まさか亡命?」
しかし、単機であることから以下の判断となった。
「迎撃を向かわせて排除すればよい、進入コースを変えさせろ。」

※1.クリアーなレーダ情報ではなく、そこに移動している不明機が存在する確率が高いとの情報

遠距離防御ゾーンの突破
連邦軍は艦隊外縁部に配置されているセイバーフィッシュ隊を迎撃に向かわせた。
しかし、シャー機との接触は失敗した。
シャー機は回避機動を含む高G加速を継続し、セイバーフィッシュ隊のコリジョンコースは再設定が繰り返された。※2
シャー中尉機は連邦軍の遠距離防御ゾーンを突破した。

※2.迎撃命令の内容が変遷した。接近・確認から阻止になり撃墜になった。

突入タイミングが異なる複数脅威への対処
セイバーフィッシュの迎撃を巧妙に回避した進入機へ連邦軍は次なる対処を取ろうとする。
しかし、この時、連邦軍艦隊は、ジオン軍主力隊へのミサイル、主砲による艦隊斉射の射撃準備が最終プロセスに入っていた。
ジオン軍主力隊とは異なるタイミングで突入する一機への射撃命令は、緻密に連携し同期する艦隊斉射の射撃管制にとって不得意※3と言えるものだった。

※3.連邦軍の防御射撃は高機動兵器の飽和突入に対して最も効果を得るよう管制される。演習でも単機、少数機が突入する状況想定は皆無であった。

中距離防御ゾーンの突破
中距離防御ゾーンに想定以上の高速で進入してくる一機へ情報分析官は恐怖を感じ始めた。
ようやく一部の艦の主砲、長距離ミサイルをシャー機へ割り振り射撃を開始する。ジオン軍主力隊への艦隊斉射のトリガーへ指を掛けていた艦にとっては咄嗟射撃(とっさしゃげき)※4になり、シャー機のミノフスキー粒子散布下での回避機動を含む高速突入は、射撃射管制のレスポンスをもどかしいものにした。
シャー中尉機は連邦軍の中距離防御ゾーンを突破した。

※4.適時、適切なリードタイムで管制されれば有効な射撃は可能であった。しかし、シャー機の刻々と変動させる経路から、攻撃意図の判断、射撃エリアの設定が遅延していった。

近距離防御ゾーンの突破
連邦軍の副砲、近距離ミサイルからなる近距離防御ゾーンの管制に、遠距離、中距離防御ゾーンでの迎撃失敗から発生したささやかなパニックが伝わった。
シャー機と連邦軍艦隊との相対速度から、連邦軍は高速パスを意図していると判断。※5
しかし、シャー機は強引に減速を開始する。
シャー機は急激な減速機動の推力方向を偏向させ、未来の位置を知る者を無くした。
近距離防御射撃の管制もシャー機の高G減速回避機動に追従することは出来なかった。
シャー中尉機は連邦軍の近距離防御ゾーンを突破した。

※5.この判断には、防御ゾーンへの進入を続けるジオン機を忌避する意識が入り込んでいた、との記録がある。

防御システムの擾乱
情報分析官は、単機で進入し連邦軍の防御ゾーンを損害無く突進するジオン機の脅威判定レベルを上げ続けた。そして、この機が射撃をしていないことで、さらに気分を暗鬱なものにした。
完全武装のザクが、家の庭先に走り込んで来た。
近接防御ゾーンはにわかには信じられなかった。自分達がジオンと直接対峙している、連邦軍の多層防御を突破された。センサーで一機の赤いモビルスーツを一瞬見る「宇宙突撃兵?」

近接防御兵器には射界およびターゲット機の相対速度、回避機動と射撃レスポンスからなるミニマムレンジが存在する。赤いモビルスーツ「ザク」は難無くその死角に入り込み、最少の射撃で艦のコントール機能を沈黙させる。
艦が担当する防御エリアが無効となった。
艦隊近接防御ゾーンの中に、シャー中尉機の「サンクチュアリ」が生じたのである。
隣接する艦の相互支援を無力化しながらシャー中尉機は、連邦軍の艦艇を連続して撃破していった。
シャー中尉機の戦果は、連邦軍艦隊の防御システムを揺さぶらせ擾乱させる。全防御ゾーンの情報、指揮、統制は錯綜し始めた。
「単独進入するジオン機はないか探せ、発見しだい最優先で排除しろ。」

ジオンモビルスーツ主力部隊の突入
軍規定の攻撃プロファイルで進攻したジオンモビルスーツ主力隊は、シャー機が送った短い発信で連邦軍の巨大な防御システムがつまづき始めていることを把握している。幾分かの経路を修正し、連邦軍の防御ゾーンへ突入した。

デブリーフィング-1
このジオンの戦果の原因は何か?
幸運な独断専行、モビルスーツのアドバンテージ、ジオン軍の練度の高さ、そして連邦軍の稚拙。
しかし、一連の戦闘の流れを見ていくとシャー中尉と主力隊は、相互の行動が相互の状況へ影響を与えていることが分かる。
 ・連邦軍の濃密な防御火網が全力で射撃をすれば、シャー中尉は突破できなかった。
  しかし、連邦軍の防御システムはジオン軍主力隊へ指向、集中していた。
  シャー中尉はこの虚を突いた。
  シャー中尉は、主力隊を自らの進入を助ける「囮」として使ったとも言える。
 ・ジオン軍主力隊は、臨戦態勢の連邦軍防御システムへ突入して行かなかった。
  シャー中尉の先行突入は、主力隊を援護する非常に有力な「助攻」となった。
 ・シャー中尉と主力隊は、異なる速度、異なるタイミング、異なる兵力の脅威を
  連邦軍へ与え、連邦軍のスムーズな戦力発揮を阻害した。
連邦軍は、翻弄されたのである。

デブリーフィング-2
シャー中尉機のプロファイルで特別強襲大隊が進入すればよかったのでは?
これについて整理していく。
シャー中尉機の高速進入を可能としたのは、本来、連邦軍艦隊内部での戦闘機動で使用する推進剤を連邦軍艦隊防御ゾーン突破に使用したからである。
そのため連邦軍艦隊内部での戦闘で使用可能な推進剤は、規定プロファイルの約70%に減少する。
(規定プロファイルではザク機体性能のトータル加速継続時間の70%を戦闘機動に振り分ける。シャー中尉機のプロファイルはトータルの50%。)
ジオン軍は、ザクパイロット、モビルスーツ中隊、モビルスーツ大隊の戦闘能力評定を厳密に行い、それを元に、連邦軍艦隊の損害を極大化させる※6プロファイルを策定した。
連邦軍艦隊内部での近接戦闘(格闘戦とも言える)で使用する推進剤の量にウェイトを置いたのである。それが、トータル加速継続時間の70%であった。
シャー中尉機のプロファイルを標準的なパイロットで構成される中隊、そして大隊でシミュレートしていくと、その戦果は満足するものにはならなかった。

※6.国力で圧倒的に不利なジオン公国軍は、戦闘、作戦での連邦軍の損害を重視した。一度、戦闘が行われたら彼我とも損害を免れることはない。その後の補充の優劣で連邦軍と争うことはできないため、戦闘が行われたら連邦軍へ徹底的な損害を与えることが要求された。

デブリーフィング-3
では、何故、シャー中尉は、少ない推進剤であの戦果を挙げられたのか?
中隊パイロットが中隊長に質問をする、中隊長はいぶかしげに答える。
「私を誰だと思っているのだ?」


所感
カテゴリー「FMA考察設-G」の「脚移動」「宇宙機動性能」は、「ガンダム」でなくとも成り立つ考察です。今回は「ガンダム」のコアエピソードを対象としました。
初見時、安彦作画による質感的なタッチ、臨場感を揚げるBGM、上擦る声のアムロ、不適に笑むシャー、強い印象を残しました。

今回も「3倍のスピード」を否定しません。シャーのザクは、「通常の3倍のスピード」で機動したのです!
その解釈の一つです。

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