F100-PW-100の高空、飛行状態の性能計算
※本ブログは、「F100-PW-100ターボファンの計算-2」を改題したのです。
前回、「F100ターボファンの計算ー1「海面上静止推力」」でF100-PW-100の海面上、標準大気、静止状態の性能を計算しましたが、今回は、F-15に搭載し高空を飛行中の性能を計算します。
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国際標準大気
フライトエンベロープ計算モデルの大気は、表1に示す国際標準大気(ISA)を使用しています。

大気の温度、気圧、密度、音速は、高度により変化していきます。変化の度合いを図1に示します。

大気のジェットエンジンへの影響
ジェットエンジンの性能は、気温、気圧、密度の影響を受けます。
事例として、いつもの米空軍「F-15A/C」フライトエンベロープを見ると、外気温が10℃違うだけで最大速度(飛行制限ではなく余剰推力0での最大速度)、上昇限度が大きく異なることが分ります。

出典:https://www.c-130.net/forum/viewtopic.php?f=36&t=59015&p=478367
注.青枠矢印は本ブログが追記
ターボ機械として見た場合、燃料の燃焼エネルギーは、温度の増加として空気流量へ与えられます。極端な話しで、もし大気の温度が上昇し圧縮後の温度がタービン入口温度の限界に達してしまうと、燃料を燃焼することはできなくなり内燃機関が成り立ちません。
推力から見ると、「推力=質量流量x噴出速度」であり、質量流用は圧縮機が取り込む空気の質量です。空気の密度が小さくなると質量流用も減少し推力は低下します。極端な話しで、もし大気の密度が0になると質量流量も0になり、反動推進が成り立ちません。
質量流量の扱い
本計算モデルにおける大気の温度、気圧の変化による質量流量の変化量は、「修正性能」を使用します。
修正性能は「高空での運転状態を地上標準大気における運転状態に修正する方法」※1であり、地上の質量流量は、
m・a=m・*(P1a/P1)*(T1/T1a)^0.5
m・:質量流量 P1:圧縮機入口全圧 T1:圧縮機入口全温
添え字a:地上標準状態 添え字無し:高空運転状態
になります。高空運転状態の質量流量は「m・」であり、これを求める式へ変換します。
m・=m・a*(P1/P1a)*(T1a/T1)^0.5=m・a*(P1/P1a)/(T1/T1a)^0.5※2
から、高空での質量流量を算定します。(圧力に比例し、温度の平方根に反比例)
※1.「ジェットエンジン」:鈴木弘一著:森北出版 p132~134
※2.気体の標準方程式PV=nRTからは気体密度n/V=P/RTになり、密度はP/Tに比例します。
圧縮機前の大気密度はP/Tに比例するので、それを取り込む質量流量もP/Tに比例すると考えました。何故、質量流量のTにはルートが付くのか?
圧縮機が1秒間に取り込む体積は面積x流体の軸方向速度になります。圧縮機内の流体速度のM数は一定で、M数は音速の比、音速は温度^0.5に比例します。面積Aは一定なので、圧縮機が1秒間に取り込む体積はT^0.5に比例します。これから圧縮機が1秒間に取り込み質量は、
圧縮機前の大気密度*圧縮機の取り込む体積
=P/Tに比例*T^0.5に比例
=圧力に比例し、温度の平方根に反比例
になります。(と、本ブログ作者は理解納得しています。)
ラム圧力回復係数
航空機が飛行状態(前進速度を持つ)の場合、ラム圧縮(空気の速度が下がる際に圧力が上昇して圧縮される現象)が生じ、圧縮機入口の圧力は静止状態より増加します。圧力の増加は前式に示す質量流量の増加となり、エンジン推力も増加します。
亜音速の場合、空気の速度はスムーズに圧力になりますが、超音速の場合は空気取入口(エアインテーク)前方に衝撃波ができ、流れが衝撃波を通るときに大きな損失を受け圧力の増加が妨げられます。
ラム圧縮圧力の理論値と損失をともなうラム圧縮圧力との比を、(ラム)圧力回復係数とよびます。
ラム圧力回復係数=損失をともなう圧力/理論値圧力
ラム圧力回復係数は飛行マッハ数の増加とともに減少していき、空気取入口の形式で減少の推移が異なります。空気取入口の形式とラム圧力回復係数減少の事例を図3に示します。

出典:「機械工学便覧」(第14編内燃機関第5章ガスタービンおよびジェットエンジン):日本機械学会
図3のラム圧力回復係数を計算モデルに組み込みます。

F-15Aに搭載したF100-PW-100の高空、飛行状態の性能計算
飛行高度の大気圧とマッハ数からラム圧縮圧力の理論値を求めラム圧力回復係数で補正し、圧縮機入口の圧力を算定します。飛行高度の大気温度からラム圧縮により上昇した温度とラム圧縮圧力および修正質量流量を使用してエンジン推力を計算します。
超音速空気取入口の形式をパラメータとして複数モデルを計算、前述の実機フライトエンベロープ資料と比較すると、最大速度において「1斜衝撃波+1垂直衝撃波」のラム圧力回復係数が合致するので、これを計算モデルに採用します。

残る課題
以上により設定した計算モデルのフライトエンベロープに残る課題は上昇限度です。
「計算モデルの上昇限度は、実機より2,000~3,000m高い。」
これについては、「F100-PW-100ターボファンの計算-3」で、モデル修正を試みます。
