MiG-25のフライトエンベロープ作成

フライトエンベロープ 戦闘機/ジェット機

高々度高速迎撃機MiG-25を構成する要素

F-15,F-86,MiG-15に続き、MiG-25PDの「機動性能計算.xlsx」(Microsoft Excelを使用した航空機性能計算モデル)を作成します。
機体サイズ、シルエット(クリップドデルタ翼、双垂直尾翼、双発、機首両側の矩形空気取り入れ口)が似ているF-15の計算モデルを元にMiG-25モデルを造りましたが、両機の要求飛行性能およびそれを達成する為の技術要素の方向性が大きく異なる「似て非なるもの」であることが見えてきます。

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Step1.エンジン諸元
MiG-25PDの搭載エンジン「ソユーズ・ツマンスキー R-15BD-300」は、アフタバーナ付きターボジェットエンジンで、以下の諸元を計算モデルで使用します。

表1.「ソユーズ・ツマンスキー R-15BD-300」計算モデル諸元

緑セルの固有諸元値は、
WikipedaA(英語)「Tumansky R-15」(https://en.wikipedia.org/wiki/Tumansky_R-15)
の外部リンク
「R-15」(http://www.leteckemotory.cz/motory/r-15/)
によります。
青字の「全圧損失」、「エントロピー効率」は、「ジェットエンジン」:鈴木弘一著の【数値例4.2】から流用した値を基準にし、一律、「全圧損失、効率補正値」1.32%の性能悪化をさせたもので、MIL推力計算値(海面静止状態)を実機資料値に合致させます。
A/B推力は「TAB:A/B(アフターバーナー)燃焼温度」を調整し、合致させます。
「レイノルズ数補正乗数」は、ブログ「F100-PW-100ターボファンの計算-3」を参照願います。

表2.「ソユーズ・ツマンスキー R-15BD-300」推力実機資料値

Step2.機体諸元
MiG-25PD計算モデルの機体諸元を以下に示します。

表3.「MiG-25PD」機体計算モデル諸元

青字の飛行機効率は、F-15A計算モデルの値を継続します。
マッハ数パラメータの最大揚力係数、有害抗力係数、ラム圧力回復係数もF-15Aと同じ設定で「開始」します。(誘導抗力係数は、F-15の飛行機効率とMiG-25PDのアスペクト比で計算)

Step3.フライトエンベロープ(実機資料)
「flight envelope MIG-25」「画像」で検索すると、オンライン掲示板で持ち寄ったMiG-25フライトエンべロープの実機(関連)資料※1がヒットします。
今回は、これらを計算モデルのターゲトとします。

※1.これらの資料の素性を確かめることはできませんが、計算アプローチの結果との一致が存在します。

図1.「MiG-25」フライトエンべロープ実機(関連)資料
出典:「F-14, the long waited aircraft! Will MIG-31BM be the next?」:DCS
https://forum.dcs.world/topic/190936-f-14-the-long-waited-aircraft-will-mig-31bm-be-the-next/page/2/
図2.「MiG-25PB」フライトエンべロープ実機(関連)資料
出典:「What the Chinese think about Russian Su-35S」:C-130.net
https://www.c-130.net/forum/viewtopic.php?f=36&t=54960&start=105

Step4.フライトエンベロープ(開始計算モデル)
フライトエンベロープ実機資料に機体重量の記載はありません。
計算モデルの機体重量は、機内燃料50%、外部搭載無し(クリーン)の28,053kgとします。
MiG-25PD固有の諸元以外は、F-15A設定値を継続した計算モデルのフライトエンベロープを実機資料と比較します。

図3.「MiG-25PD」フライトエンべロープ計算モデル(開始)(実機資料と重ねる)

いきなり(マッハ数制限が無ければ)M3オーバーのフライトエンベロープになりました。
計算結果と実機資料を比較し相違点を見て行くと、
 ・計算モデルの最小速度は、実機資料より小さい
 ・計算モデルの上昇限度は、実機資料より小さい
 ・制限マッハ数M2.83オーバーの領域の感じは良いような?

相違点からの計算モデル調整の方針は、
 ・最小速度の原因が、揚力不足なのか、何らかの安定性かは分からないが、
  最大揚力係数を減らしていく。
 ・上昇限度の増加には、有害抗力係数を減らしていく。
  F-15A計算モデルでの上昇限度調整※2と異なり、フライトエンベロープの下辺は
  動圧制限からなるので、有害抗力の減少で上辺のみが上がる(ハズ)。


※2.F-15Aのフライトエンベロープ下辺は、動圧制限ではなく推力不足からなので、有害抗力の変更はエンベロープ下辺にも影響を与えました。ブログ「F100-PW-100ターボファンの計算-3」を参照願います。

有害抗力係数の設定について
「機動性能計算.xlsx」の有害抗力係数は、以下の資料をベースに作成しています。※3

図4.有害抗力係数 実機資料(1)
出典:「航空宇宙工学便覧」B2.4 飛行機の空力特性:日本航空宇宙学会編,丸善出版
図5.有害抗力係数 実機資料(2)
出典:「Aerodynamic design and evaluation of an open-nose supersonic drone」:Sage Jpurnals
画像アドレス:https://journals.sagepub.com/cms/10.1177/09544100221084389/asset/images/large/10.1177_09544100221084389-fig4.jpeg

※3.実機の飛行性能を計算しようと試みる場合、ネックとなるのが具体的な実機のデータです。
計算モデルの作成初期では、「航空宇宙工学便覧」(市立図書館の赤ラベル禁帯出蔵書)が有害抗力係数の唯一の拠り所でした。

Step5.フライトエンベロープ(調整1回目計算モデル)
調整方針から以下の変更を行います。
 ・亜音速の最大揚力係数を、F-15A設定値の60%に削減。
 ・有害抗力係数のベースをF-15からRA-5Cにする。

図6.「MiG-25PD」計算モデルの有害抗力係数設定の調整変更
図7.「MiG-25PD」フライトエンべロープ計算モデル(調整1回目)(実機資料と重ねる)

最小速度は良好、上昇限度はまだ足りません。
調整2回目へ進みます。

Step6.フライトエンベロープ(調整2回目計算モデル)
有害抗力係数(RA-5Cベース)のラインを引き下げても、フライトエンベロープの上昇限度は上手く上がらず、ピーク位置がM2.5になりません。エンベロープだけを見ながら係数の設定値を変えていくと係数ラインは他機種と比べておかしなものになっていきます。
有害抗力係数は、RA-5Cベースで固定します。

ラム圧力回復係数の調整を試みます。
F-15Aのラム圧力回復係数をベースに、回復係数の落ち込みを緩和すると上昇限度は上がり、ラインを調整するとM2.5ピークが再現します。

図8.「MiG-25PD」計算モデルのラム圧力回復係数設定の調整変更
図9.「MiG-25PD」フライトエンべロープ計算モデル(調整2回目)(実機資料と重ねる)

最終計算モデルの諸元設定
調整2回目の計算モデルを最終とします。
MiG-25PDの最終設定はF-15Aと比較し、
 ・表1,3のエンジンモデル諸元、機体モデル諸元の変更は無い。
 ・亜音速領域の最大揚力係数は、F-15Aモデルの60%に減少。
 ・超音速領域の有害抗力係数は、F-15Aより減少しRA-5Cベース。
 ・ラム圧力回復係数は、F-15Aより効率低下が小さい。※4

※4.その高性能の裏付けは取れていません。実機資料に近づくエンベロープだけを見ながら係数の設定値を変えていき、その結果が、あまりにもおかしなラム圧力回復係数にならなかったので採用です。
個々の「本当かな?」は目をつぶり、とりあえずのエンベロープ完成を優先しています。

「MiG-25PD」計算モデルのマッハ数パラメータを示します。

図10.「MiG-25PD」計算モデルのマッハ数パラメータ(最終)

「MiG-25PD」のフライトエンベロープを示します。

図11.「MiG-25PD」フライトエンべロープ計算モデル(最終)

所感
高々度、M3.0へ延びるフライトエンベロープを有するMiG-25PDの計算モデルを作成しました。
作成では、F-15の計算モデルを元にしたので、まざまざとMiG-25とF-15との違いが見えてきます。

有害抗力係数
超音速領域におけるMiG-25の有害抗力係数はF-15よ大幅に低いものですが、これは、F-15が亜音速でのドッグファイトを重視した翼形状で超音速に突入するため、F-15の有害抗力係数が過度に大きなものになってしまうと考えます。
そして、MiG-25の有害抗力係数が、RA-5C(ヴィジランティの偵察機型)設定で計算結果が良好となるのは、下記の技術解説を興味深く読んでいたので、感慨深いものがあります。

「だからA.ミコヤン自身が、あるいは設計局がA-5ビジランティから何らかのヒントを得たか、(中略)ということに非常な興味がある。」
(世界の傑作機No.83 MiG-25フォックスバト「MiG-25の技術的特徴」解説:鳥養鶴雄)

ラム圧力回復係数
これもMiG25はF-15より効率の良い設定になりました。
有害抗力と同じく、F-15の空気取り入れ口がドッグファイトでの高迎角対処を含むため、超音速域は最適化していないのか?

ミコヤン設計局の高速度を獲得するため技術投入、性能追及に畏怖を感じます。

F-15は言います、「貴方は亜音速で何ができるのでしょうか。」
MiG-25は言います、「貴方は超音速に来られるのでしょうか。」

さて、MiG-25が何とかなったならば、「天から降りる蜘蛛の糸」エンベロープのSR-71モデルの作成も試みたいです。

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