鴨緑江上空の赤い後退翼ジェット戦闘機MiG-15の機動性能
MiG-15とF-86は、共通の祖先を持ちながら異なる大陸で同時期に出現した後退翼ジェット戦闘機です。
F-86Fのエネルギー機動ダイアグラムに続き、MiG-15bisのダイアグラムを作成します。
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搭載エンジン「クリモフVK-1」
MiG-15bisが搭載するジェットエンジン 「クリモフ VK-1」の計算モデルについては、ブログ「MiG-15搭載エンジン 「クリモフ VK-1」の計算」を参照して下さい。
F-86F搭載の「J47-GE-27」と「クリモフVK-1」の圧縮機は形式が違います。遠心圧縮機の「クリモフVK-1」の計算モデルは、軸流圧縮機の「J47-GE-27」計算モデルと、圧力比、質量流量の扱いが異なります。
MiG-15の機体諸元
「MiG-15bis」固有の機体諸元として以下を計算モデルに設定します。

調整機体諸元(開始設定)
調整対象の飛行機効率、及びマッハ数パラメータの最大揚力係数、有害抗力係数、ラム圧力係数は、F-86Fと同じ設定(後退翼、機首空気取入)で「開始」します。誘導抗力係数は、MiG-15bisのアスペクト比で計算。
エネルギー機動ダイアグラム(開始設定計算モデル)
検証対象とする実機(関連)資料は、「DCS:World flight models」(Eagle Dynamics社が開発した軍用機を主としたコンピュータ用のフライトシミュレーション)を使用させていただきます。

出典:「Subsonic Energy- Maneuverability Diagrams for DCS」
https://www.v303rdfightergroup.com/index.php?pubs/subsonic-energy-maneuverability-diagrams-for-dcs-world.142/
これと(開始設定)計算モデル「エネルギー機動ダイアグラム」を重ねると、

飛行条件(両図とも)高度:0m 機体重量:4,458kg 推力:MIL 外部抵抗:クリーン
最大揚力係数はF-86Fの設定継続で良好、MiG-15制限Gの資料が見つからず軍用機一般の8Gとしています。
Ps0ラインが異なります。M0.7を境にして、低速側は計算モデル<実機資料、実機資料の方がより高Gで維持旋回可能、高速側は逆に実機資料<計算モデル、実機資料のPs0ラインは急激に落ち込みます。
設定諸元の調整の考察
M0.7を境界とするPs0ラインの逆転を調整する手段として、
・「推力」による調整は難しい。高度0速度0の推力は資料値を使用し固定している。
これを起点にM0.7までは計算モデルの推力を上げて、M0.7以降は推力を下げる補正は出来ない。
・低速側は最大旋回に近いので誘導抗力の比率が大きい。
「飛行機効率(迎角最大)」を増加すれば誘導抗力が低下し、Ps0ラインは上がる。
・高速側は誘導抗力の比率は小さく、「飛行機効率(迎角0)」の影響は限定される。
・亜音速領域で一定値を取る「有害抗力係数」を減少さればM0.7以下のPs0ラインは上がるが、
M0.7以降のPs0ラインも上がってしまう。亜音速領域「有害抗力係数」のみでは解決しない。
・「有害抗力係数」の遷音速領域(係数の上昇カーブ)はM0.7付近から始まる。
この開始を早めるとことで、M0.7以下への影響無く、M0.7以降の有害抗力を増加
させることができる。
これらの調整方法が挙げられる。※1
※1.あくまで、本計算モデルの結果を変更させる手段であり、航空力学からのアプローチではありません。
設定諸元の調整の結果
上記の調整方針から、
・低速側を対象とした「飛行機効率(迎角最大)」の調整
・高速側を対象とした「遷音速領域有害抗力係数」の調整
・全体を対象とした「亜音速領域有害抗力係数」の調整
を実施(カットアンドトライ)をしました。
その結果は、

飛行条件 高度:0m 機体重量:4,458kg 推力:MIL 外部抵抗:クリーン
実機(関連)資料と重ねると、

飛行条件(両図とも)高度:0m 機体重量:4,458kg 推力:MIL 外部抵抗:クリーン
低速側も高速側も概ねPs0ラインは一致しました。
残るのは、Ps0ラインと最大旋回ラインとの交差です。
が、これは・・・ 今後の課題とします。
MiG-15bis機動性能計算機体諸元
調整後の機体諸元、エンジン諸元、マッハ数パラメータを示します。
F-86Fからの変更点は、
・「飛行機効率(迎角最大)」を0.5(F-86F)から0.8(MiG-15bis)へ変更
・「遷音速領域有害抗力係数」の開始をM0.7(F-86-F)からM0.6(MiG-15bis)へ変更
・「遷音速領域有害抗力係数」の係数上昇をM0.98(F-86-F)からM0.9(MiG-15bis)へ変更
・「亜音速領域有害抗力係数」を0.014(F-86-F)から0.015(MiG-15bis)へ変更


所感
F-86Fに引き続き、MiG-15bisのエネルギー機動ダイアグラムを作成しましたが、同じ後退翼ジェット戦闘機でも、まったくの同一ではなく、空力特性の細部で微妙な差異があり、機動性能の差となっています。
調整値は、機動性能が資料と合致するかで調整値の可否を選択したもの(空力特性から機動性能の順ではない)ですが、空力特性のバランスで性能が成り立つことを実感します。