F-15のフライトエンベロープ作成 rev.4改訂

フライトエンベロープ 戦闘機/ジェット機

数値空間において、航空機の速度、旋回、上昇、エネルギー機動の性能を全飛行領域で演算

本ブログについて
本ブログは、PC表計算ソフト「Microsoft Excel」を用いて航空機の飛行性能の計算を行うものです。
機体、エンジン諸元とマッハ数で推移するパラメータをエクセル内で設定、
高度と速度から動圧を求め、翼面積、揚力係数、抗力係数から空力上の「揚力」「抗力」を計算し、
圧力比、タービン入口温度などからエンジン「推力」をエクセルが計算します。
計算結果を飛行領域、旋回、上昇率、エネルギー比率へ処理をして、
エクセルのグラフ機能でフライトエンベロープ、エネルギー機動ダイアグラムのフォーマットで出力します。

投稿履歴、お問い合わせは、「航空 機動/兵装 サイトマップ」へ

計算モデルの改訂について
計算モデルをrev.4へ改訂します。
初回投稿以降、計算モデルの構成、モデル設定値の変更を継続的に行っています。
これは、計算モデルの結果と実機飛行性能資料との差分を解消するようモデル構成を修正し、新たに入手した実機資料の情報をモデルへ反映するからです。
変更内容については、「F-15のエネルギー機動ダイアグラム作成 rev.4改訂」をご参照ください。

作成したF-15A/Cのフライトエンベロープ(FMA:rev.4)
今回は、F-15A/Cフライトエンベロープの紹介です。
「フライトエンベロープ」は、
横軸に速度(マッハ数)、縦軸に高度(m)を取り、維持旋回(速度、高度の低下が無く、持続可能な旋回)※1をG単位で示すグラフです。
白色からグレー、黒色の範囲が、飛行可能な領域(フライトエンベロープ、飛行包絡線)、色の濃さで1G~9Gの値を示します。
フライトエンベロープの外側は、飛行制限(エンジン制限、動圧制限、マッハ数制限)と揚力不足、推力不足のため、水平飛行を維持できない領域になります。
滑らかでないのは、連続性を持って計算するのではなく、速度と高度を離散化(速度0.025M、高度250mで分割)し、セル単位で計算、計算結果をセル色で図示(エクセル機能「条件付き書式」を使用)するためです。

※1.フライトエンベロープでの維持旋回は、水平直進飛行状態で継続維持可能な「揚力」のGを扱います。

図1.F-15A/C計算モデルのフライトエンベロープ(FMA:rev.4)

計算モデルの概要
計算には、大気データ、機体設定、エンジン設定およびマッハ数で推移する設定(最大揚力係数、有害抗力係数、誘導抗力係数およびエンジン空気取入口のラム圧力回復係数)を使用します。

1.大気データ
計算モデルの大気データは、国際標準大気(ISA)を使用しています。
高度から気圧、空気密度、温度を求め、空気密度と速度から動圧、温度から音速を決定します。
ジェットエンジンは、気温が低いほど性能が向上します。
F-15の高度/上昇時間の記録飛行「ストリーク・イーグル」は、1975年1月にカナダとの国境線に接する極寒のノースダコタ州グランドフォークス空軍基地で実施されました。この飛行を再現するには、平均最低気温-16°C、最高気温-7°Cの大気データを必要とします。

表1.国際標準大気の温度、気圧、密度、音速

2.機体設定
F-15A/C計算モデルにおける機体諸元の設定は表2になります。
翼面積、アスペクト比から空力を計算し、制限事項で飛行領域を制約します。
飛行時の機体重量は、ミッション、燃料の消費で変動するので、計算モデルで使用する機体総重量の設定を表3で設けます。
計算モデルでは、揚力、抗力、推力、重力の力(ちから、フォース)[kgf]、[N]を機体重量(質量)[Kg]で除し加速度[G]にして扱います。

表2.F-15A/C計算モデルの機体設定(FMA:rev.4)
表3.F-15A/C計算モデルの機体総重量設定の一例

3.エンジン設定
ジェットエンジンの「推力」は、「噴出ガス質量」x「噴出ガス速度」で求まります。※2
エンジンの噴出質量は質量流量[kg/s]、噴出速度はエンジン諸元の圧力比、タービン入口温度、A/B(アフターバーナー)燃焼温度などを使用した計算を経て求めます。
F100-PW-100,200計算モデルの設定は、表4になります。

※2.これは、静止状態での基本計算です。
また、ノズルがガスを周囲大気圧まで膨張しきれない場合は、圧力差による推力が発生します。
(本計算モデルでは、現状、100%膨張で圧力差は無しで計算。)
飛行状態(0<速度)では、質量流量はラム圧力による補正を受け、向かってかってくる空気を受け止めるラム抗力が生じます。(ラム圧力=密度増加は推力にはプラス、ラム抗力はマイナス)
また、噴出ガス質量には燃料の質量も含めています。

表4.F100-PW-100,200計算モデルの設定(FMA:rev.4)

F100エンジン推力計算の過程は、図2になります。(ファン側も同様に計算し合流ます。)

図2.F100エンジン推力計算の過程(海面上、静止状態)

表4には、黒文字と青文字があり、黒文字は、雑誌、書籍、ネットなどからのカタログ値、公称値です。青文字は、計算モデル内で調整した値です。
調整値は、入手できないもの、または、計算結果を実機に合わせるために調整するものです。
設定の「全圧損失、効率補正値」でMIL推力(ミリタリー推力、アフターバーナーを使用しない推力)の計算結果を調整し、「A/B(アフターバーナー)燃焼温度」で、A/B推力を調整します。
調整後のF100計算モデル推力を表5に示します。

表5.F100-PW-100,200計算モデルの海面上、静止推力(FMA:rev.4)

F100エンジンの推力計算、F-15のエアーインテークを含む推進システムの計算については、本ブログサイトマップ「航空 機動/兵装」のカテゴリー「ジェットエンジン.Calc」を参照して下さい。

4.マッハ数パラメータ
計算モデルの飛行領域を亜音速のみではなく遷音速、超音速まで拡大させると、最大揚力係数、有害抗力係数、誘導抗力係数、ラム圧力回復係数を単一の値で扱うことはできません。
マッハ数で推移していくからです。
マッハ数パラメータは、図3のグラフライン上のマーカーを代表値として設定し、その間を関数で補間します。その補間関数から、M=0から最大速度までのマッハ数と対応するパラメータ値を求めます。

図3.F-15A/C計算モデルのマッハ数パラメータ(FMA:rev.4)

5.マッハ数パラメータの実機資料適用
F-15の有害抗力係数、ラム圧力回復係数は、実機資料を入手できたので、それらを適用します。
「有害抗力係数」は、実機資料をトレース。
「ラム圧力回復係数」は、実機資料をベースにフライトエンベロープおよび水平維持旋回Gが実機資料と合致、近づくよう調整しました。

図4.実機資料を使用したF-15A/C計算モデルの有害抗力係数およびラム圧力回復係数(青ライン FMA:rev.4)
左図有害抗力係数出典:「Aerodynamic design and evaluation of an open-nose supersonic drone」:Sage Jpurnals画像アドレス:https://journals.sagepub.com/cms/10.1177/09544100221084389/asset/images/large/10.1177_09544100221084389-fig4.jpeg
右図ラム圧力回復係数(全圧力回復)出典:「Elements of Gas Turbine Propulsion」:Jack D. Mattingly
※青ライン、青文字名は、本ブログが追記

6.マッハ数パラメータの調整
最大揚力係数、誘導抗力係数の実機資料は入手できなく、
「最大揚力係数」は、実機の最大揚力Gの資料から調整し決定、
「誘導抗力係数」は、フライトシム関連のエネルギー機動ダイアグラム資料から調整し決定したものです。

ブログ「航空 機動/兵装」について
「個人の趣味で計算をしています。
計算モデルは公式から構築しますが、そこに入れるパラメータの入手がネックです。
真の値の入手は不可能ですが、素人が趣味でやることですから、不明なところは「こんな感じかなー」で処理します。
(こんな感じだったのかと分かってくるのが、良いものです。)
ただ、個々の資料からピックアップしたデータを公式に当てはめ計算していくと、その結果は、そんなおかしなものには成らない事に驚きしました。

その為の公式、データだからと言えばそうですが、工学のリアリティーに畏敬の念を感じます。

流麗な機体ライン、精密なディティールを作り込むスケールモデル、実機と同じ操作を要求される精密フライトシミュレーター、現実空間で空気の流れをつかみ飛翔するRC機、大気を含め最高の一瞬を切り取る写真撮影と同じ「航空機へのアプローチ」の一つです。」

で始まった本ブログですが、半年経ちました。
ブログの投稿前は、延々と遅々として進まずの状態でしたが、投稿が駆動力となりこれまでに無いペースで進行(対象を、兎にも角にも一旦、完成の形で終わらせる)しています。
が、長く続けることができるよう、思うことあり、ふと思い立った、新、真資料で認識が拡大した時の新鮮感をトリガーにし進めて行きます。

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