F-15Aの計算モデルを元にF-86Fの「エネルギー機動ダイアグラム」を作成し、ダイアグラム計算モデルの検証を行います。
F-15A「エネルギー機動ダイアグラム」計算モデルの機体とエンジンの諸元を変更しF-86Fのダイアグラムを作成します。作成を通じ、「ダイアグラム計算モデル.xlsx」が一過性の(F-15Aに特化した)ものなのか検証を行います。
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Step1.エンジン推力
F-86Fのエンジン「J47-GE-27]の推力を以下の諸元で算定※1します。
薄緑色のセルがF-15Aの「F100-PW-100」から変更したものです。
J47-GE-27はターボジェットなのでバイパス比は0、A/B(アフターバーナー)はなくMIL(ミリタリー)推力のみ、タービン入口温度はF100より約500K低いです。
※1.ジェットエンジン推力の算定モデルについては「F100-PW-100ターボファンの計算-1
」を参照願います。

この設定による算定MIL推力を実機資料と比較すると、「悪くはないが・・・10%近く差があるのは・・・。」

今回、MIL推力の調整はエンジンの主要諸元ではなく、「ジェットエンジン」:鈴木弘一著の【数値例4.2】から流用しているエンジン構成要素の全圧損失、効率で行いました。
対象機器が一律にn%性能が悪化または向上する調整です。


2.11%の性能悪化の調整(2.11%の全圧損失増加、2.11%の効率低下)をさせると、算定MIL推力が資料値と合致します。(燃料消費率の差分増加は目をつぶる)
初版が2004年の「ジェットエンジン」【数値例4.2】より、2%機器の性能が低い。これは、何らかの有意性があるのか?
Step2.空力性能
次に機体諸元の設定です。これも同じく薄緑色セルのみF-15Aからの変更箇所です。
重量、翼面積・・・、マッハ数パラメータでは有害抗力係数、ラム圧力回復係数を変更します。
「F-15のエネルギー機動ダイアグラム修正」で調整対象とした飛行機効率は、とりあえずF-15Aのままで試してみます。


Step3.資料との比較
表3,5、図1の最低限の設定変更で、計算モデルをF-15AからF-86Fにした結果を資料と比較します。
資料は、「DCS:World flight models」(Eagle Dynamics社が開発した軍用機を主としたコンピュータ用のフライトシミュレーション)を参考にさせていただきます。

出典:「Subsonic Energy- Maneuverability Diagrams for DCS」
https://www.v303rdfightergroup.com/index.php?pubs/subsonic-energy-maneuverability-diagrams-for-dcs-world.142/
これと計算モデル「エネルギー機動ダイアグラム」を重ねると、

飛行条件(両図とも)高度:0m 機体重量:5,514kg 推力:MIL 外部抵抗:クリーン
Ps0ラインの傾向は一致。最大揚力は、計算モデルより資料が1G低い。資料の制限Gは7.5G。
Step4.設定諸元の調整
この比較から以下の調整を行いました。
・亜音速領域の最大揚力係数を80%にする(1.2→0.96)
・制限Gは他の資料の7Gを採用
・亜音速領域の飛行機効率を、迎角0度で0.7→0.8、迎角最大で0.4→0.5へ増加
(最大揚力係数の変更から、飛行機効率の修正が必要となる)
この計算モデルの結果は、

飛行条件 高度:0m 機体重量:5,514kg 推力:MIL 外部抵抗:クリーン

飛行条件(両図とも)高度:0m 機体重量:5,514kg 推力:MIL 外部抵抗:クリーン
調整後の計算モデルの算定結果は、飛行領域、Ps0ライン、Ps補助線(±50feet/s)が、資料と概ね合致します。
以上から、同一の計算モデルを使用して、F-15AとF-86Fのエネルギー機動ダイアグラムの作成が可能であり、計算モデルは汎用性がある、と言えます。
所感
最小レベルの調整で、F-86Fの「エネルギ機動ダイアグラム」は成り立ちました。「エネルギー機動ダイアグラム計算モデル.xlsx」は、第一世代戦闘機と第五世代戦闘で機能します。
今後のダイアグラムの作成はスムーズに進行したいですね。
F-15Aの設定諸元からF-86Fへの変更で、最大揚力係数が80%に低下しました。これは、
・後退翼の翼端失速のフォローは、離着陸時が対象。
・飛行領域左側の最大揚力ライン(フロイトエンベロープでは、揚力不足との境界線、失速速度ライン)での最大迎角はフォロー外。
・空戦形態でも飛行領域右側の最大速度、高マッハが主であり、失速速度付近での機動は考慮されていない。
と、推定します。