F100-PW-100の海面上、標準大気、静止状態の性能計算
※本ブログは、「F100-PW-100ターボファンの計算-1」を改題したのです。
フライトエンベロープ、エネルギー機動ダイアグラムを作成するには、エンジン推力値を必要とします。
カタログ値のエンジン推力は海面上静止状態の推力であり、高度、速度が変わると推力も変わります。高度の増加で大気密度が減少すると推力は低下し、速度の増加によるラム効果で空気流量が増加すると推力は増加します。
この高空性能、ラム効果を再現するために、エアインテーク、圧縮機、燃焼器、タービン、ノズルからなる計算モデルを作成し、各ステージでの温度、圧力、エンタルピーの推移を計算、噴出する質量[kg/s]と噴出速度[m/s]から推力[kgm/s^2]を算定します。
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参考書籍
「ジェットエンジン」:鈴木弘一著の【数値例4.2】を全面的に使用しています。
この本は、空気力学、熱力学の解説も含み、推力の求め方などを多くの例題を用いて解説しています。
公式の羅列ではなく例題とその「解答」があるので、公式へ入れる値の単位、乗数の扱いなどが確認でき、計算モデルで例題を解いてエラーチェックをすることで、独学の落とし穴、迷走ループを回避できます。

「ジェットエンジン」:鈴木弘一:森北出版
https://www.morikita.co.jp/books/mid/069051
ターボ機械としての「F100-PW-100」※1
空気を圧縮することにより高効率の燃焼をさせて高温高圧のガスをつくり、高温高圧のガスから圧縮に必要とするエネルギーを取り出し前段の圧縮を連続させ、取り出した後の(大気と比べれば高温高圧な)ガスを膨張噴出し推力を得るターボ機械(機械の力と流体の力を変換する装置)の計算モデルを作成します。
※1.F100はアメリカ合衆国のプラット・アンド・ホイットニーが開発した航空機用アフターバーナー付きターボファンエンジンである。F-15戦闘機とF-16戦闘機に搭載されている。
出典:Wikipedia「プラット・アンド・ホイットニー F100」
何故、F100シリーズの最初期型「F100-PW-100」なのか?、数値計算アプローチによるフライトエンベロープの作成を始めた要因の一つが、「F-15イーグル」:航空ジャーナル1978別冊の入手であり、この別冊の発行は航空自衛隊のF-15導入時期のためだからです。

「F-15イーグル」:航空ジャーナル1978別冊
「F100-PW-100」性能諸元
「F-15イーグル」:航空ジャーナル1978別冊、「ジェットエンジン」:鈴木弘一:森北出版および「Pratt & Whitney F100」:Wikipedia(英語版)から性能諸元を設定します。

表1.「F100-PW-100」計算モデルの性能諸元
※2.F100-PW-220の流量を流用
※3.「コンプレッサー~圧縮比8:1」と、ファン+コンプレッサーの「総圧縮比24:1」から、ファンの圧力比を24/8=3としました。
※4.「ファン:3段式」、「コンプレッサー:軸流10段」から、ファンの等エントロピー効率を、100-(100-ηc)*3/(10+3)[%]としました。
これの諸元を「ジェットエンジン」【数値例4.2】の式構成で、海面上(SL)、標準大気(ISA)、静止状態でのMIL推力※5を算定します。
※5.ミリタリーパワー、ドライ推力の本ブログでの略称
「F100-PW-100」MIL推力の計算結果
各ステージでの全圧、全温の計算結果を示します。

図1.「F100-PW-100」計算モデルの海面上、標準大気、静止状態におけるMIL推力の全圧、全温
F100-PW-100は、バイパス比0.6、総圧力比24、タービン入口温度1,672[K]により、全圧0.32[MPa]、全温874[K]のガスをノズルへ送り込みます。

表2.「F100-PW-100」計算モデルのノズル入口全圧、全温
ノズルは音速が581[m/s]になるガスを膨張させ、速度へ変換します。

表3.「F100-PW-100」計算モデルのノズル膨張率とガス温度の音速
※6:本計算モデルは大気圧まで膨張させ、圧力差による推力は無いモデルです。
ノズルはガスの流れを縮小拡大してガス温度音速の1.15倍まで加速、これを噴出。69,997[N]の推力を得ます。

表4.「F100-PW-100」計算モデルのMIL推力
※7.燃料の質量を含めるため、m・(質量流量)より増加しています。
この計算値を資料値と比較します。MIL推力および燃料消費率とも、大きく違うことはありませんでした。

表5.「F100-PW-100」計算モデルのMIL推力、燃料消費率と資料値との比較
「F100-PW-100」A/B推力の計算結果
次にA/B推力※8を算定します。
A/B推力諸元のアフターバーナーダクト内燃焼温度、燃焼効率の値は、残念ながら入手することができません。そのため、資料の示すA/B推力、燃料消費率となるA/B燃焼温度と燃焼効率を逆算して決定しました。
※8.アフターバーナー (afterburner)、再燃焼器を使用した推力の本ブログでの略称。
プラット&ホイトニー社の「F100-PW-100」に「オグメンタ」(augmentor,(推力)増強装置)ではなくアフターバーナーを用いるのは失礼ですが、一番通りの良い日本語からアフターバーナーを使用します。なお、F-15のスロットルには、MILとMAXと表記されています。

表6.「F100-PW-100」計算モデルのA/B(アフターバーナー)諸元
この諸元を全圧、全温の図に追加します。

図2.「F100-PW-100」計算モデルの海面上、標準大気、静止状態におけるA/B推力の全圧、全温
再燃焼でガス温度を上昇させ、ガス音速を581[m/s]から832[m/s]に増加させることにより、噴出速度を増加させています。

表7.「F100-PW-100」計算モデルのA/B推力
A/B温度1,850[K]、A/B燃焼効率46[%]で計算すると、推力、燃料消費率は資料値になります。

表8.「F100-PW-100」計算モデルのA/B推力、燃料消費率と資料値との比較
所感
MIL推力を公表されている諸元と公式および代表的な損失、効率で計算すると、燃料消費率を含めて近い値になることには驚きました。また、A/B燃焼温度を1,850[K]とするのも悪くはありません。
この計算結果となる理由としては、計算モデルが初歩の段階のもの(タービンと圧縮機が低圧、高圧の2軸で連結するモデルではなく、タービン仕事はエンタルピードロップで算定しているなど)、アメリカが正確なエンジン諸元を公表していることになります。
そして真に重要であり機密とすべきことは、1,672[K]のタービン入口温度に代表される高性能なエンジン要素を開発、製造し、これらを統合、運用をすることになるのでしょう。