エアーインテークのラム圧力回復係数へ実機データを適用
「F100ターボファンの計算-2「高空飛行推力」」において、F-15のエアーインテークによるラム圧力回復係数は、理論値※1の「1斜衝撃波+1垂直衝撃波」を使用しました。
その後、ネット検索の捜索により実機資料を見い出したので、「機動性能計算.xlsx」(Microsoft Excelを使用した航空機飛行性能計算モデル)へ適用します。
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※1.ラム圧力回復係数の理論値(理想値)の資料を図1に示します。

左図出典:「機械工学便覧」(第14編内燃機関第5章ガスタービンおよびジェットエンジン):日本機械学会
右図出典:「AERODYNAMIC PRINCLPLES FOR THE DESIGN OF JET-ENGINE INDUCTION SYSTEM」
:NACA RESEARCH MEMORUNDUM
ラム圧力回復係数の実機資料
検索を英語圏へ広げると、米空軍、NASA、掲示板フォーラム(P&W社員の書き込みがある!)などが検出されます。それらしきPDFを見て行くと図2と出会いました。※2

過去と現在の航空機と超音速輸送(SST)モデルの全圧力回復
出典:「Elements of Gas Turbine Propulsion」:Jack D. Mattingly
※2.「MiG-25のフライトエンベロープ作成」の「有害抗力係数の設定について」で記したように、(一個人が趣味として)実機の性能を計算しようとした際のネックの一つは実機データの入手になります。翼面積、重量、エンジン推力などの基本仕様は容易に入手できます。エンジン圧力比、質量流量、タービン入口温度などは昭和の航空機年鑑巻末資料、Wikipedia(英文含む)、アカデミックの文献から探します。しかし、最大揚力係数、有害抗力係数、誘導抗力係数、ラム圧力回復係数の(理論値、代表値、概算値ではない)各機固有の値の入手は困難です。市立図書館の「宇宙工学便覧」で有害抗力係数を見た時は小躍りしました。今回、ネット検索による圧力回復係数の実機データとの邂逅に、ネット検索空間の広がりと深さに畏敬を感じます。
「Tailor mate」について
図2をのF-15のプロットを見ると、「Tailor mate」の記述があります。
「Tailor mate」※3は、「1969年から1972年にジェネラル・ダイナミクスが空軍のために実施した、吸気口と機体の統合に関する最も包括的な調査」です。
図2中の「fuselage shielded」(機体シールド付き)と「side mounted two dimensional」(サイドマウント二次元)は、「Tailor mate」で調査されたインテークと機体のレイアウトタイプです。
このレイアウトを図2に追加し図3にします。
F-15のエアーインテークは、機首の下ではなく機体サイドに配置されてる二次元ランプ型なので、「side mounted two dimensional」のラインを使用します。

全圧力回復係数図出典:前掲 ※青枠、青文字、青枠図は、本ブログが追記
※3.本ブログの「Tailor mate」についての出典は、
「NASA Langley/General Dynamics Project Tailor-Mate (ca.1969-1972)」
:「Secret Projects Forum」
https://www.secretprojects.co.uk/threads/nasa-langley-general-dynamics-project-tailor-mate-ca-1969-1972.5429/
実機資料「ラム圧力回復係数」の計算モデルへの適用
図2の「side mounted two dimensional」をトレースする図4の青ラインを計算モデルで設定します。

全圧力回復係数図出典:前掲 ※青ライン、青枠、青文字は、本ブログが追記
計算モデルの有害抗力係数も実機資料値をトレース設定します。

有害抗力係数図出典:「Aerodynamic design and evaluation of an open-nose supersonic drone」:Sage Jpurnals画像アドレス:https://journals.sagepub.com/cms/10.1177/09544100221084389/asset/images/large/10.1177_09544100221084389-fig4.jpeg
ラム圧力回復係数、有害抗力係数を実機資料で設定したF-15計算モデルによる計算結果のフライトエンベロープを実機資料と比較します。
計算結果は実機資料と比べ、最大速度でM0.05大きく、最大速度領域のエンベロープが若干膨らみますが「概ね一致」します。

計算モデル「ラム圧力回復係数」設定:実機資料トレース
総重量:35,000lb 外部抵抗:クリーン 標準大気(STD DAY)※青ライン、赤文字は、本ブログが追記
エンベロープ図出典:https://www.c-130.net/forum/viewtopic.php?f=36&t=59015&p=478367
ラム圧力回復係数の調整
計算モデルと実機のエンベロープは概ね一致しますが、ここで欲を出し、計算モデルのラム圧力回復係数を調整し※4、実機エンベロープへ近づけます。
※4.有害抗力係数を調整してもよいのですが、図5の有害抗力係数実機資料は、「F-22スーパークルーズエンベロープの作成」の「Step4.「有害抗力係数」の傾向と相関性を有する指標」に記すよう計算モデルの指標としているので手を付けません。
フライトエンベロープおよび水平維持旋回Gが実機資料と合致、近づくよう微調したF-15A/Cの「機動性能計算.xlsx」(FMA)におけるラム圧力回復係数の設定を図7に示します。

全圧力回復係数図出典:前掲 ※青枠、青文字、青枠図は、本ブログが追記
この「ラム圧力回復係数」設定による計算モデルフライトエンベロープは、

計算モデル「ラム圧力回復係数」設定:実機資料をベースに調整
総重量:35,000lb 外部抵抗:クリーン 標準大気(STD DAY) ※青ラインは本ブログが追記
エンベロープ図出典:https://www.c-130.net/forum/viewtopic.php?f=36&t=59015&p=478367
かなり一致(ブログ投稿者感想)しました。
以後、実機資料をベースに調整とした「ラム圧力回復係数」を設定するF-15計算モデルを「FMA:rev.4」とします。
所感
従来のラム圧力回復係数設定「1斜衝撃波+1垂直衝撃波」とrev.4設定の「実機資料ベース調整」を比較すると図9になります。
超音速領域で両者に大きな相違はありませんが、亜音速、遷音速での回復効率の扱いが理論値(理想値)か実際の値かで分かれます。

実機資料値を計算モデルに投入し、計算結果のフライトエンベロープを実機資料と比較しました。
現時点での「機動性能計算.xlsx」(FMA:rev.4)の到達点です。